「てっぺん目指してこうな!」如月みゆら
デビュー当時からアイドルの自己紹介で、ストレートに上を目指す宣言を入れるのは珍しいな、と思っていた。
さる2022年6月25日、名古屋アイ教ファミリーとして活躍したアイドルグループ、【センチメンタルラバー(元あいじゅにラバー)】が解散ライブを開催した。
同時にメンバーの如月みゆら、宇佐見はんな、朝日奈ジュン、赤羽笑幸はファミリーを卒業。
アイドルとして一つでも上の景色を目指し活動していた矢先、突然のプロデューサー訃報で決まったグループ解散。
メンバーの卒業や脱退、コロナ禍など逆境を乗り越えてきて、ついに届かなかった人気アイドルへの道。
本来は2022年後半以降に3回目の外箱ワンマンライブも予定され、新曲の準備も進めていた中での、
「こんなに早く来るとは思ってなかった卒業」みゆら
彼女たちが目指すてっぺんに到達するには、あまりにも試練が多すぎたか。
2018年11月からはじまったラバー約3年半の歩みを、結成から解散まで中心にいたリーダー如月みゆらを中心に振り返ってみる。
甘い時間だけではなかった道のり
2018年11月4日スタートしたラバーは当初から波乱続きだった。
「みんなを夢中にさせちゃうぞ、甘い時間を召し上がれ」
のキャッチフレーズをひっさげ、アイドル教室13期生から選ばれた【5人】で始まった。
アイドル教室ファンからも、ファミリーユニットとして注目されながらのデビューを飾る。
しかし3ヶ月もしないうちに、卒業などで3人抜け如月みゆらと光井真帆(現アイドル教室)の【2人】体制となってしまう。
2人アイドルグループというのは、やはり難しいものだ。活動の方針など意見が一対一になるし、ライブ当日に1人が急虚欠番となれば、残された側はソロになってしまう。
「同期がどんどん減ってって2人になっても頑張ってくれたのが現アイドル教室メンバーのまほろん。
2人期間はそれはもう大変で。ぶつかることも沢山あって。まあ基本私が悪いんだけど」みゆら
この苦しくも厳しい約8ヶ月でみゆらと光井は、グループ黎明期を作り大きく成長した。
そして、2019年8月18日新体制が発表される。光井真帆はアイドル教室準選抜へ移動したが、【2人】から【11人】の大型グループになる。
その中には最終メンバーとなる14期生宇佐見はんな、朝日奈ジュン、赤羽笑幸もグループに加入。
一挙に大所帯となりみゆらは唯一の先輩として、大人数をまとめるのに悪戦苦闘する。
「まとめ役とリーダー兼任は負担が大きい」とプロデューサーの配慮で、リーダーは別メンバーが担当した。
「新体制になって沢山人増えて。14期生ほぼほぼ入ってきてめちゃくちゃ私は辟易してました」みゆら
新生ラバーは先輩グループ「アイドル教室」公演でゲスト出演したり、アイドル教室の楽曲をカバーしたりして、地道に認知度を上げていく。
そんな中、2019年10月5日にラバーは大きな成果を達成する。
如月みゆらが初めて自身の生誕祭を開催し、目標動員人数【90人】を達成。あいじゅにラバー初外箱LIVEの権利を手に入れる。
やはりアイドルは外箱ワンマンライブで動員してこそ、人気グループの道が開けるというもの。
「やっぱアイドルの思い出って言われて1番思うのは生誕祭だけどこれは特別だったなあ。なんせ外箱の権利を獲得したわけだし」みゆら
2019年11月27日には「アイドル教室10周年記念公演」でゲスト出演をはたし、ファミリーユニットとしての存在感を増す。
活動拠点「寿司処五一」のファミリー合同ライブでも
「アイドル教室でなく、あいじゅにラバーを観にきた」
というファンも現れ、ここから人気グループの階段を登っていくかに思われた。
コロナ禍の逆風にも踏みとどまるラバー
ところが上り調子のラバーにかつてない試練がやってくる。
世界中でコロナ禍が蔓延。全国のアイドルイベントやライブは大幅な規制が設けられてしまう。活動自粛になり、日程が決まっていた初外箱ワンマンライブ開催も危ぶまれた。
それでもなんとか、2020年3月26日(木) にユニット単独として初の外箱LIVE『名古屋 ReNY limitedワンマンLIVE sweets be ambitious』を開催。
目標動員【平日開催300人】は達成ならなかったが、みゆらはチームの中心メンバーとして活躍。
新曲「sweets be ambitious」や新衣装、そして向上したパフォーマンスをグループ全体が魅せた。
このライブを経て、アイドルグループとして一段上にラバーは登った感触があった。
その後は深刻さを増すコロナ禍により、かつて無いほど活動は厳しい状況になる。しかし目指す上のステージへ行くために、ラバーは負けるわけにはいかない。
他アイドルグループと同様、ラバーもオンラインでの活動が主になった。
ネット配信ライブやオンライン特典会、そしてYouTubeへの動画投稿など、無観客で慣れない中でも活動をコツコツ重ねていく。
YouTube投稿は先輩「アイドル教室」も力を入れており、現代のアイドルグループはどこもチャンネルを持っている必須のツール。ラバーもグループを知ってもらうために、ライブの魅力を伝えるために伸ばしたいSNSだ。
しかし、先の見えない不安や、モチベーションの低下などでメンバーの卒業脱退が相次ぐ。自分の将来を考える時間が増えたメンバーたちの心境変化に、このコロナ自粛期間は大きく影響した。
そして2021年12月にはとうとう4人体制になってしまう。結局この4人がラストメンバーとなる。
だが、残った精鋭4人は以前とは比べ物にならないほど成長している。
朝日奈ジュンは元気だけが目立っていたが可愛らしさが増し、赤羽笑幸は絶えない笑顔に加え、天然ボケで笑いも取れる。宇佐見はんなの多彩な表情力は名古屋有名アイドルたちにも引けを取らない。
そしてまとめ役との兼任は負荷が重いと外れていたリーダー役に、3代目としてみゆらが就任。
まだまだラバーは上を目指せると、メンバーもラバーファンも諦めてはいなかった。
突然の訃報。あいじゅにラバー解散へ
しかしそこに音もなく近づいてきた非情なプロデューサーの訃報。これまでなんとか耐えていた彼女たちの足場が崩れていく音がした。
グループは6月25日で解散が決まり、メンバー4人はファミリーも卒業することに。
「仕方が無いことだけど、まだまだ続けたかったのが正直な思い。悔しい。でもこれもきっといい分岐点だよね」みゆら
当然2回目ワンマンも中止の方向に。
それでもなんとか最後の大きな舞台を、とファミリー全員の協力で開催までこぎつけた。
『2022年5月20日 2回目のレニーワンマンライブ Fly to dream』
このライブでも目標動員【200人】は果たせなかったが、プロデューサー梅村氏が生前残した新曲『小さく咲く花』を披露。
さらにグループ名を「センチメンタルラバー」へ改名しファンを驚かせる。
最後の大舞台での、衝撃大発表と気迫あるパフォーマンスの余韻に浸ると同時に、解散まで残り約1ヶ月を切ったんだと実感が湧いた。
4人に幸運を
そして迎えた6月25日、「寿司処五一」での解散ライブ。
優待チケットは即完売。メンバーは徹夜で会場の飾り付けなどの準備。
デビュー当時から格段にパフォーマンスのスキルは高められ、これまで培った曲・ダンスの全てを出し切るセンチメンタルラバー。
最初で最後のお披露目となった新曲『君だけの私』は、ずっとラバーのダンス指導を担当している佐藤明咲のソロ曲だったもの。
急ピッチで完成させた新曲を見事に自分たちのものにしているメンバー達。
ラストナンバーにラバー始まりの曲「君がくれた唄」を本日限定アレンジで歌い、最後の最後で挨拶の振りを間違え失笑を生んだ光景を、みんな忘れることはないだろう。
ファンたちは彼女たちの可愛さと、最後まで裏切らない間抜けっぷりを鑑賞し、極上のスイーツにも似た甘さを存分に味わった。
あいじゅにラバーが誕生して約3年半が過ぎた。
グループとして大型アイドルフェスの経験はないし、有名メディア出演の実績もない。各SNSのフォロワー数も多くはない。
しかし、定期的に活動拠点でライブを行い、メンバーそれぞれの生誕祭はどれも可愛げで楽しませる公演だったし、外箱ワンマンライブも2回行いファンの記憶に残っている。
楽曲は当初、解散した別ユニットから引き継いだものと、アイドル教室のカバーだけだったが、今はオリジナルソングが4つもある。
「ワンマンライブでの動員人数」「SNSのフォロワー数」「有名アイドルフェス出場回数」
これらの数字がアイドルとしての人気のバロメーターとするなら、ラバーはけっして人気のあるグループではなかっただろう。
全国のアイドル好きに「センチメンタルラバー・あいじゅにラバー」を知っているか聞いたとしても、認知しているオタクを見つけるのは難しいはず。
はっきり言ってラバーは人気アイドルといえる活躍をしたわけではない。
だが、一部のオタクたちの熱狂的な人気を集めた。
その理由は、先輩グループ「アイドル教室」の影響力があったからというだけではないだろう。
メンバーの脱退や卒業、イベント中止など数多くの試練に襲われても、腐らずひたむきに上を目指す姿がファンの心を打ったに違いない。
「ラバーは、すごい今まで大変なことがたくさんあったけど、いろいろ乗り越えてきて。
ファミリー初の3年続いたグループで、8つも曲をいただけて(カバー含む)、すごいアイ教ファミリーの歴史に名を残したグループなんじゃないかなって思っています。
今日でいなくなっちゃうのは凄く寂しいんですけど、みんなの心の中に少しでも私達のことが残っていただけたら、すごく私達は嬉しいです」みゆら
ラバーメンバーたちの、てっぺんを目指すアイドル人生は、小さくてもたしかに輝かしいものだった。
卒業するラストメンバー4人は、それぞれの道で活躍してくれるものと期待している。
願わくば、最後までやりきった4人のこれからに幸運を。