【2019年アイドル業界】を振り返る。日向坂46誕生・WACKの勢い・・・

アイドル教室が10周年をむかえた2019年は元号が「平成」から「令和」へと変わり、アイドル業界も心機一転、新たな気持ちで意欲的に動き始めた年でもある。

2018年の下半期には愛媛県のご当地アイドル「愛の葉Girls」のメンバーであった大本萌景さんの自殺や「NGT48」のメンバー・山口真帆さんがファンから襲撃を受けるなど、アイドルという仕事自体の「安全面」や「精神衛生面」が疑問視されるような事件が続出。

アイドル志望者が激減すると思われたが、2019年はその反省を踏まえ、メジャーも地下も含めて全体がコンプライアンスを徹底した結果、業界のイメージはかなり持ち直した。

そういった意味では、2019年のアイドル業界は既存のパラダイム(業界構造)を一旦破壊した上で再生し、前に進もうとする、いわば「リセット元年」と言っていいだろう。

2019年5月4日センチュリーワンマン

また、2019年7月から9月にかけてはNHK土曜深夜のドラマ枠「よるドラ」で地下アイドルをテーマにした作品「だから私は推しました」が放映。

地下アイドルを扱った物語としては今までにない、現実のライブや物販風景を正確に再現した内容で、このドラマが地下アイドルの認知度アップに一役買ったであろうことは間違いない。

 

業界全体が良い方向に導かれようとしていたのが2019年であり、この風潮は2020年へも順調に受け継がれるかと思いきや、コロナ禍という未曽有の事態に直面し、業界の地盤が一瞬にして崩壊寸前の危機に。

2019年から積み上げていこうとしたものが2020年に再度ゼロに戻されるという、二段階のリセットをしなければならない状況に陥ったのは予想外の悲運としか言いようがない。

今回は2019年のアイドル業界を振り返るという内容で語っていきたいのだが、2019年から沸き起こりつつあったムーブメントの中にはもちろんコロナ禍によって完全に熱が冷めてしまったものもあれば、今もなお引き続き注目されているトピックスもある。

歴史というのは何事も流れで見ていくほうが興味を惹くと思うので、2019年を象徴するアイドル界の大きな動きや変化の中でも特に、2020年以降にもその影響を強く及ぼしている話題を中心にお届けしていきたい。

 

2019年アイドル業界の主なできごと

2019年(令和元年)のアイドル業界主なできごと一覧

1月

■アイドル教室12期生桝井萌々夏が『あいじゅにラバー』を卒業。『あいじゅにラバー』は8月まで如月みゆら光井真帆の【2人】体制に。

『あいじゅにラバー』如月みゆらと光井真帆の【2人】体制

 

 

■日本アイドル界を代表するグループ『でんぱ組.inc』を「夢眠ねむ」が卒業・芸能界を引退
愛踊祭アンバサダーでんぱ組.incの夢眠ねむがアイドル教室をレポート-5

 

2月

■アイドル教室11期生花咲らん卒業
2019.2.15ハッピー&ハッピー「花咲らん」卒業公演

 

■坂道グループの「けやき坂46」が改名して「日向坂46」誕生

 

3月

■AKB48グループより毎年6月頃行っている「AKB48選抜総選挙」が、2019年以降開催しないとアナウンスされる

 

4月

■AKB48選抜総選挙3連覇を果たすなどした「指原莉乃」がHKT48を卒業

 

5月

■アイドル教室 「センチュリーホール」ワンマンライブ。新曲「フェスティバルーレット」お披露目

 

■アイドル教室14期生【13名】が加入し『8代目寿司ドルJr』として活動開始。
8代目寿司ドルJr解散ライブ

 

■アイドル教室8期生桜田花音が卒業
桜田花音-寿司処五一でパフォーマンス

 

 

6月

■ハロプロ6代目リーダー・アンジュルム初代リーダー「和田彩花」がハロプロ卒業

 

7月

NHK総合テレビ『だから私は推しました』放送

 

■毎年この時期開催される、日本3大アイドルフェスの1つ「アイドル横丁夏まつり!!」は未開催だった。

 

8月

■アイドル教室がグループの総称を「アイドル」から「パフォーマンスチーム」へ変更
アイドル教室2019.8月総称を「アイドル」から「パフォーマンスチーム」へ変更


■『あいじゅにラバー』の光井真帆が『アイドル教室』に昇格
光井真帆がアイドル教室に昇格

 

 

■アイドル教室新曲「precious to…」発表

 

 

■日本3大アイドルフェス「TOKYO IDOL FESTIVAL 2019(通称TIF)」がお台場・青海特設会場で開催。アイドル教室と同じく10周年を迎えた日本最大アイドルフェスは【8万8000人】で総来場者数記録を更新。アイドル戦国時代は終わったなどささやかれるが市場は拡大傾向か。

 

■日本3大アイドルフェスの1つ「@JAM EXPO 2019」が横浜アリーナで開催され総来場者数【約2万5000人】

 

9月

寺沢ありすソロ2thシングル「light of my life」発売

 

10月

■『アメトーーク!』にて「~クセがすごい女性グループ~ BiSHドハマり芸人」放送

 

11月

■アイドル教室 10周年記念公演inダイアモンドホール
アイドル教室10周年記念公演inダイアモンドホール

 

■アイドル教室14期生結城ゆあが『あいじゅにラバー』を卒業

アイドル教室14期生結城ゆあ卒業-2

 

12月

■アイドル教室15期生桃瀬乃愛加入
桃瀬乃愛

■WACK所属で「豆柴の大群」結成

 

■アイドル教室14期生福田 ことりが『あいじゅにラバー』卒業

アイドル教室14期生福田 ことり卒業公演

 

■アイドル教室月島 彩ソロデビュー曲「輝跡shining」発売

 

■乃木坂46 20thシングル「シンクロニシティ」が第60回日本レコード大賞受賞

 

 

坂道グループの長期政権化、2番手うかがうWACK勢

2020年4月に放送された関ジャニ∞の番組「関ジャム完全燃SHOW」では現在のアイドル業界最新事情を特集していたのだが、その的確な分析にアイドルオタクの間でも番組の内容が評判となっていた。

番組の中では現時点でのアイドル業界勢力図が紹介されており、

  • 坂道グループ(乃木坂46、欅坂46、日向坂46など)
  • AKBグループ(AKB48、SKE48、NMB48、HKT48、NGT48など)
  • ハロプロ(モーニング娘。、アンジュルムなど)
  • スターダスト(ももいろクローバーZ、 私立恵比寿中学など)
  • WACK(BiSH、豆柴の大群など)
  • ディアステ(でんぱ組.inc、虹のコンキスタドールなど)
  • avex(わーすた、SUPER☆GiRLSなど)
  • 声優系(i☆Ris、=LOVEなど)

などの8大勢力がトップ集団に位置し、次世代型の個性派アイドルが後に続くというもの。

 

実はこの構図というのは2019年から続いているため、これをそのまま2019年の「年間を通じたアイドル業界勢力図」に置き換えてもほぼ問題はない。

坂道グループ

ただ、この8大勢力の中でも、2019年の1年間で圧倒的に支持層を拡大したのが坂道グループであるということには誰一人異論はないだろう。

2019年6月に文化放送「レコメン!」の企画によって行われた「女性アイドル顔だけ総選挙」という毎年恒例のイベントがあるのだが、投票の結果、1位から20位までのうち6位のNMB48・太田夢莉と9位のSKE48・松井珠理奈を除き坂道グループのメンバーがランキングを独占。

ちなみに先日行われた2020年度の同企画でも1位から12位までを坂道グループが占めており、坂道グループの勢いだけはコロナも関係なく2019年から2020年へと継続している。

「日向坂46」

とりわけ2019年において坂道グループの覇権を盤石のものにしたのが、2019年2月に欅坂46のアンダーグループからから独立、単独でのデビューを果たした3番目の坂道グループ「日向坂46」

デビューシングル「キュン」は発売初週に47万6000枚を売り上げ、女性アーティストによるデビューシングルの初週売上枚数歴代1位という記録を達成した。

絶対的センターの小坂菜緒を中心に据え、究極レベルに仕上がった洗練度の高いビジュアルを誇る彼女達の出現は同性からも憧れの存在として支持を集め、「女ヲタ」の急増にも影響を与えたと言われている。

この日向坂46のデビューそれ自体が、2019年のアイドル業界における重大ニュースの第1位であるという見解を示している関係者も多い。

 

WACK(ワック)

先ほどの8大勢力の話に戻ると、もうひとつ2019年で特筆すべきなのが、WACK勢の凄まじい猛攻。

坂道グループが8大勢力で群を抜いてトップなのは揺るぎないとして、2018年まではハロプロとスタダが2番手を争っており、AKB系は陰りは見えるものの実績は文句無しで「1場所休場中の横綱」といった感じ。

BiSH

WACK勢は旗艦グループのBiSHが一気にメジャーシーンへと駆け上がってきたものの、GANG PARADEや第2期BiSなど後続の訴求力が弱く、WACK独自主催のフェスなども打っていたが外部にその熱量を伝えきれず、もどかしい状況が続いていた。

その膠着状態を打開したのが2019年10月、「アメトーーク!」で放送された「BiSHドハマり芸人」。この番組をきっかけにBiSHの知名度は爆発的に上昇することに。

 

豆柴の大群

更なる追い討ちをかけるように2019年12月、人気番組「水曜日のダウンタウン」内での企画「MONSTER IDOL」から生まれた5人組のアイドルグループ「豆柴の大群」がデビュー、オリコン週間ランキング1位を獲得。

ここでようやくBiSHしか知らなかった一般人層にも、「WACKファミリー」というバックの存在が可視化されるようになった感がある。

この一連の流れがあと3ヶ月前倒しになっていればBiSHは紅白に間に合ったのではないか? とする意見がオタクの間でも飛び交っていた。

ファーストサマーウイカ

WACKは数年前からユニット間でのメンバーの流動が非常に激しいため、組織の全容というのがなかなか把握しにくいものがあったのだが、初心者がWACKについて知ろうとするためのハードルを下げたのは他でもない、2019年下半期にバラエティー番組から引っ張りだこだったファーストサマーウイカの貢献度も無視できない。

ファーストサマーウイカはWACKの原型ともいえる初期BiSメンバーからBILLIE IDLEを経てタレントへと転身した、WACKの歴史と共に歩んできたような存在。

彼女が大ブレイクを果たしたことにより、ファーストサマーウイカの経歴を調べようとする者は自然とWACKが発展してきたプロセスにも触れることになるので、結果としてWACKがかなり身近な存在になったのは想像に難くない。

ハロプロやスタダが拡張期を終え既存ファンの囲い込みへと移行しつつある状況の間隙を縫うかのように2019年のアイドル界を席巻し、いつの間にか業界2番手を射程圏内に収めるほどの成長を遂げたというのは、他のアイドル運営にとって2020年以降も引き続き脅威となるだろう。

 

命運分けた「エレクトロニカ」と「AOR」の2019年二強ジャンル

「可愛いアイドル」と評価される顔立ちやメイク、髪型の定義が時代と共に変わっていくように、アイドルの楽曲にも流行がある。

2019年のアイドル界を象徴する楽曲ジャンルとして挙げられるのが

  1. エレクトロニカ
  2. AOR

エレクトロニカ

エレクトロニカ(英語: Electronica)とは、電子音楽や、電子音楽に影響を受けている音楽全般を包括的に表す言葉である。
引用:ウィキペディア

エレクトロニカは元々電子音楽の総称だったが、テクノ系のクラブイベントなどで流れるダンサブルなEDMとは少し異なり、繊細かつ練り上げられた独特の旋律が特徴の、芸術性の高い打ち込みサウンドを指す言葉として使われるようになった。

sora tob sakana(ソラトブサカナ)

アイドル界におけるエレクトロニカの代表といえば「sora tob sakana」

デビュー2年目から照井順政氏がテコ入れとして楽曲面でのプロデュースを務め、2018年7月にアニメ「ハイスコアガール」のタイアップ曲としてリリースされた「New Stranger」がアイドルヲタの間で絶賛。

アイドルライター・ピロスエ氏が主催する「アイドル楽曲大賞2018」で堂々の第1位に輝く。

(ちなみにこの年は10位以内にsora tob sakanaが3曲ランクインするという驚異的な強さだった)

2019年もその快進撃はとどまることを知らず、より洗練度を増したシングル曲「ささやかな祝祭」「flash」、アルバム曲ながらオリエンタルな曲調が強烈に印象に残る「knock!knock!」など、歴史的な名曲を連発。

ネクストブレイク候補の最右翼として業界関係者の視線が彼女達に集中した。

 

AOR

AORとは、Album-Oriented Rock(アルバム・オリエンテッド・ロック)、Adult-Oriented Rock(アダルト・オリエンテッド・ロック)の略語であり、音楽のジャンルの一つである。
引用:ウィキペディア

もうひとつの注目ジャンルであるAORだが、AORの「A」には「アダルト」と「アルバム」の2つの意味があり、分かりやすくまとめると、オシャレなミュージシャンのアルバムに収録されているような都会的で大人っぽい雰囲気の曲、といったところ。

日本では山下達郎や今井美樹などに代表される、海岸沿いのドライブで流すイメージの80年代風ニューミュージックがその典型である。

フィロソフィーのダンス

このAORスタイルを2015年のデビュー当時から一貫して追求してきたのが「フィロソフィーのダンス」(通称:フィロのス)。

アイドル界屈指のステージング技術は業界筋からも非常に高く評価されていたものの2018年まではやや伸び悩んでいる印象だったが、2019年4月よりテレビ朝日で初の冠番組「フィロのス亭」が放送開始されたあたりから楽曲の良さが改めて見直され、快進撃がスタート。

2019年7月の六本木アイドルフェスティバルで他の演者を圧倒するステージを見せつけ、翌月8月のTIFでも全日参加を果たし、この年におけるフェスクイーンといえる活躍だった。

サウンドの完成度に当たり負けすることのない超本格派のパフォーマンスも彼女達の真骨頂であり、代表曲「ダンス・ファウンダー」でもセクシーかつコミカルな軽快さを兼ね備えた大人のヴォーカル&ダンスを見せつけている。

楽曲の潮流はAORに軍配が!?

『sora tob sakana』と『フィロソフィーのダンス』、この2組が2019年アイドル界の楽曲レベルを劇的に底上げしたことは間違いない。

だが、2020年へと続く流れの上で語るのであれば、これら2つのジャンルによる覇権争いは結果的にAORに軍配が上がることになる。

エレクトロニカの方は大将格であったはずのsora tob sakanaが2020年秋の単独ツアーをもって解散を発表。

また、sora tob sakanaのブームを受けてインスパイア系ユニットが次々誕生するかと期待されたが「CUBΣLIC(キューブリック)」や「LiLii Kaona(リリカオ)」などの中堅どころがエレクトロニカを武器にしているものの、思ったほどジャンルとしての活力が見られない。

 

一方でAORの方はフィロのスが引き続き絶好調をキープしており、そもそもが80年代邦楽ベースなので比較的キャッチーな楽曲を量産しやすいという優位性もあって、AORを意識したアイドルが2020年以降も増殖し続けている。

純正AORイズムの後継者との呼び声高い「MELLOW MELLOW」をはじめ、デジタルポップとのハイブリッド型である「サンダルテレフォン」など、絶対数としてはもちろん王道アイドルポップよりは少数派ではあるものの、どのユニットも勢いがあり未来が明るい。

ウイルスという天災によって業界のムーブメントがひとつその灯を消してしまったのは残念としか言いようがないが、この先また新たなジャンルの音楽がアイドル業界に新しい波を起こしてくれるだろう。

 

まとめ

2019年のアイドル界を振り返ると共に、2019年の流れが2020年のコロナ禍を受けてどのように変化しているのかという部分も併せて考察してきた。

正直、人類の歴史上でも最大規模の危機が訪れた2020年から見れば、普通に握手会やライブに参加できていた2019年はそれだけで幸せだったのかもしれない。

坂道グループがどれだけ長期に渡って業界トップに君臨するのか、WACKがどこまで伸び続けるのかは当然興味のあるところだが、ファンの一番の願いはやはりどのアイドルも良好なコンディションで競い合ってくれることだろう。